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東京高等裁判所 昭和30年(ネ)516号 判決

北海道拓殖銀行

理由

判決要旨

証拠を綜合すれば、訴外会社は昭和二十七年六月頃経営不振の結果自己振出の手形の決済が困難となり、その額は同月末日頃約六千万円に達するに至つたので、窮状打開のため会社更生手続開始の申立をしたが、手形不渡処分を免れるため、各取引先に対しそれぞれ関係手形の買戻方を懇請して大略その承諾を得たこと、これより先訴外会社は取引代金支払のため同年五月九日控訴会社に宛てて金額五十七万円、満期同年八月十日と定めた約束手形(以下単に旧手形という。)を振り出し、控訴会社はこれを訴外日本信託銀行で割引を受けていたのであるが、前記事情から訴外会社においてその支払ができず、ために右所持人銀行から裏書人たる控訴会社に償還請求がなされる関係にあつたところから訴外会社は控訴会社に対しても右旧手形の買戻を懇請したが、控訴会社の承諾を得るに至らなかつたこと、そこで訴外会社の取締役宮野重基は被控訴銀行日本橋支店長と折衝した結果、同支店において控訴会社の裏書のある手形の割引をすることを承諾したので、更に控訴会社代表者に交渉して控訴会社が訴外会社振出の約束手形の裏書人となつた上、被控訴銀行日本橋支店から右手形の割引を受け、これによつて得た金員をもつて訴外会社の旧手形決済資金とすることを承諾するに至り、控訴会社の経理担当社員横山政志がその意を体して本件約束手形の第一裏書欄に控訴会社代表取締役名義により拒絶証書作成義務免除の文言とともに被控訴銀行に宛てた裏書の記載をなした後、被控訴銀行日本橋支店に到り、割引手形金の支払を怠つたときは金百円につき一日金五銭の割合による過怠金を支払うこと等を内容とする手形割引約定書を作成交付し、割引料を支払つて本件約束手形の割引金五十七万円の小切手を同支店から受領し、これを訴外会社のため日本信託銀行に振り込んだ結果、旧手形は振出人たる訴外会社に返還されるに至つたことが認められる。右認定の事実に徴すれば、控訴会社代表者は結局訴外会社の懇請を容れて本件約束手形の裏書人となつて被控訴銀行日本橋支店からその割引を受け、その金員を訴外会社のため旧手形決済の資金に充てることを承諾し、その結果社員横山政志にその裏書部分の記載をなさせ、且つ同人を代理人として被控訴銀行の代理人たる日本橋支店長との間に本件約束手形の割引に関し必要な契約をする権限を授与したものと解するのを相当とする。従つて控訴会社は本件約束手形の割引を受けるため、被控訴銀行との間に前記内容の手形取引約定をした上、拒絶証書作成義務を免除して本件約束手形を被控訴銀行に裏書譲渡したものといわなければならない。

されば控訴会社は本件約束手形の裏書人としてその責に任ずべきものであるから、被控訴人の本訴請求は正当として認容すべく、これと同趣旨の原判決は正当で、本件控訴は理由がないとしてこれを棄却した。

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